モーツァルトとベートーヴェン、豪華プログラムが伝える音楽の神髄~兵庫芸術文化センター管弦楽団 第148回定期演奏会~

【PACファンレポート70 兵庫芸術文化センター管弦楽団 第148回定期演奏会】2月10日の定期演奏会はモーツァルトの協奏曲とベートーヴェンの交響曲というゴージャスな組み合わせ。指揮は協奏曲ではオーボエの吹き振りをするハンスイェルク・シェレンベルガー。1980年1月から2001年夏までベルリン・フィルのソロ・オーボエ奏者を務め、退団後はカラヤンやアッバートなどの著名な指揮者との演奏経験を生かし、指揮者、ソリスト、教育者として活動しているという。

 

最初の曲はモーツァルトの「フルートとハープのための協奏曲」(オーボエとハープ版)。ハープのソリストは、マルギット=アナ・シュース。シェレンベルガーの妻でもあるという。いかにもモーツァルトらしい軽快な音の運び。オーケストラの中で重要なパートを務めるが、主役に躍り出ることはあまりないハープの特徴のある音色に聞きほれる。普段はフルートとハープで演奏されるこの曲を、オーボエ独奏でシェレンベルガーが奏でる。弦楽5部に、オーボエとホルン2人ずつの小編成の楽団が控えめに寄り添い、洗練された優美な音色がホールに満ちた。

シュースのアンコール曲はR・シューマンのリーダークライスOp.39第5曲「月夜」。ロマンチックな春の宵のような音楽だった。

 

佐渡芸術監督が8月の第152回定期演奏会で演奏するシェーンベルクの交響詩「ペレアスとメリザンド」をテーマに、寺門孝之さんが絵本のように描き進める趣向の今シーズンのプログラムの表紙。2幕1場の外苑の泉のシーン。メリザンドはゴローにもらった大切な指輪を泉に落としてしまった。ペレアスはメリザンドが泉に落ちるのではと心配そう

タクトを手にしたシェレンベルガーがPACとともに披露したのは、ベートーヴェンの交響曲第5番。この曲の名前を聞くと2005年10月に兵庫県立芸術文化センターがオープンする時に、阪急電車の駅で何度も目にした佐渡裕芸術監督のポスターが目に浮かぶ(きっと私だけではないでしょう?)。「ジャジャジャジャーン!」と愛嬌たっぷりな佐渡さんが「ここにおいでなさいな」と劇場に誘うポスターだった。

プログラムには「運命」という副題のいわれは、あまりあてにならず、この副題を使っているのは日本だけのようだとあり、曲名からもその言葉は外されている。しかしながら、PACが誕生して第1回の定期演奏会(2006年4月)に、佐渡さんが指揮したのもこの曲だった。その時にPACと“運命”的な出会いをした人たちも多かったのではないだろうか。

この日はカーテンコールの時の撮影が許された

シェレンベルガーはプログラムのインタビューでPACメンバーに伝えたいこととして「自分の演奏に常に誠実であること」と述べている。それは「自分を出すことなく、作曲家と音楽のための奉仕者」である音楽家の立場を理解して受け入れることという。作曲家が求める音楽を演奏するために謙虚であれと。自らも音楽家として一流の指揮者たちと共演を重ねた先達の重い言葉、若いPACメンバーの胸にもしっかり刻まれただろうか。

オーケストラのアンコール曲はベートーヴェンの序曲「コリオラン」。演奏前にシェレンベルガーはこの演奏会の前日に訃報が発表された「小澤征爾さんに捧げる」と客席に告げた。小澤さんも何度でも楽譜を読み込むことを大切にした指揮者だった。合掌。

 

コンサートマスターは豊島泰嗣。ゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンの白井篤(NHK交響楽団第2ヴァイオリン次席)、ヴィオラの柳瀬省太(読売日本交響楽団ソロ・ヴィオラ)、チェロの伊藤文嗣(東京交響楽団首席)、コントラバスの黒木岩寿(東京フィルハーモニー交響楽団首席)。スペシャル・プレイヤーはバスーンのシュテファン・トゥルノフスキー(ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団奏者)、ホルンの五十畑勉(東京都交響楽団奏者)。PACのOB・OGはヴァイオリン5人、チェロ1人が参加した。(大田季子)




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